出来ることならば殺処分せずに、犬たちを助けてやりたいと思い悩んだ。
2003年が明けて間もなく、佐藤は以前、動物福祉をテーマにした講演会で日本レスキュー協会 (注)に招かれて講演したことを思い出した。
「そうだ!この団体なら、引き受けてくれるのではないだろうか?」
こう考えた佐藤は、藁をもすがる思いで受話器を取ったのだった。
「大学で実験用に飼っていた犬の内、12頭を急遽、処分しなければならなくなりました。
大学当局からの通達で、期限も限られています。何とか、そちらの施設で引き取っていただくわけにはいかないでしょうか。
実験動物のお陰で人間にとって大切な成果が得られているのです。私たちは彼らに十分な敬意を払わなければならないのです」
佐藤の電話は、何とかして12頭の実験犬を助けたいという思いで、鬼気迫るものがあった。
「ご事情はよく分かりました。職員みんなと相談しますので、2、3日、時間をください」
事情を知った日本レスキュー協会は、すぐにミーティングを開いてみんなの意見を聞きすぐ二名が大学に向った。
(注) NPO法人日本レスキュー協会
日本レスキュー協会は、1995年に起きた阪神・淡路大震災をきっかけに発足したNPO法人である。高度な訓練を受けた犬を災害地に派遣し、倒壊家屋や瓦礫の下にいる生存者を発見する活動を行う。
この大震災の時に、スイス災害救助犬チームはいち早く救助犬とともに神戸にやってきて、ビルや家屋の瓦礫などに埋もれて行方不明になった被災者の発見などに活躍したのは有名である。
その活躍に刺激され、レスキュードッグを訓練・育成する必要性を身に沁みて感じ、同年9月1日、大阪の豊中市に日本レスキュー協会は設立された。
現在は、レスキュードッグ (注)とセラピードッグ (注)を訓練・育成し、彼らを必要とする災害現場や福祉団体などに派遣したり、捨てられた犬で適性がある犬をセラピードッグとして訓練し、福祉施設に譲渡するなど動物福祉の活動に努めている。
現在日本では、全国で犬や猫が約1900万頭飼われているといわれる。まさに、ペット天国と言われる状況である。
しかしその一一方で、人間から虐待を受けたり、飼い主から見放され、そして捨てられるペットたちも後を絶たない。
全国の自治体の処分場では、年間約20万頭もの犬が処分されているのが現実だ。
日本レスキュー協会の目標は、「犬とともに、社会に貢献する」ということ。
日本レスキュー協会のレスキュードッグは、すでに国内のみならず世界各地の災害現場で救助活動の実績を積んでいる。
別表にあるように、これまでに、トルコ、イラン、アフガニスタン、インド、台湾、メキシコ、ペルーでの災害救助などにもレスキュードッグを派遣し、その活動が世界的にも注目を集めている。
海外では、スイス、フランスなどのヨーロッパ各国、アメリカでのレスキュードッグの活動が有名だが、日本レスキュー協会ではレスキュードッグを育成するための独自の基準を作り、活動のレベル向上に努めている。
(注) レスキュードッグ
人命救助を第一の使命とする特別に訓練された犬のこと。
地震や台風などの災害時に倒壊したビルや家屋、土砂崩れの現場で、行方不明者を捜索することを任務としている。
日本では、1995年に起きた「阪神淡路大震災」の際に、外国のレスキュードッグの活躍が報道され、一躍注目され始めた。
日本レスキュー協会では、国内外の災害地に犬を派遣するために、日常的に厳しい訓練を実施している。