動物福祉の延長線上に、人間の福祉がある

いまから30年以上も前になるが、佐藤には、アン・ロスというイギリス人女性から動物福祉の思想を身をもって教えてもらった経験がある。

当時、この思想は日本に入ってきておらず、彼女の考えや行動を誰も理解することができなかった。


しかし、実験動物を単なる道具ではなく、自分たち人間と同じように大切な生き物なのだという彼女の考えは、次第に佐藤の心をとらえ、ついには彼女のことを尊敬するまでになっていた。

その後、若くして彼女は亡くなったが、佐藤はその遺志を受け継ぐことを決意した。

彼女が残した言葉がある。

「動物福祉の延長線上に、人間の福祉がある」

佐藤は、いまもこの言葉をもっとも大切な座右の銘としている。

アン・ロスの考えを日々の仕事の中で生かし、日本中に広めることを願っている佐藤にとって、今回のことはまさに寝耳に水である。

一通の通達が出され、狂犬病のワクチンを投与していなかったという理由だけで、殺処分が決定される。それは、あまりにも動物の命が軽視されているのではないか。

実験に使われるといっても、そのことによって医学や薬学などの進歩・発展に役立っているのだから、彼らの命も決して無駄にはなっていない。

しかし、こういう形での殺処分にどんな意味があるんだ?佐藤は大学側の一方的なやり方に対して怒りに震えた。