実験動物に対する福祉思想

しかし、O大学の動物実験施設で働いている技術者の佐藤良夫は、愛護団体への配慮もあったとはいえ、今回出された大学側の突然の通達に驚き、どうしても納得のいかないものを感じた。

・・・ここにいる犬たちは、動物実験をするために収容されている。しか実験が終わったからといってすぐに処分されるということではない。予定していた実験を終了し、その内容によっては、数年間施設内で生活する犬も多い。

実験効果が確認されるまでは、適切な治療をし、大切に生かされ、ある一定期間が経った後に別の新しい実験が行われるというのが現状だ。

そして、一連の実験が終った段階で使命を果たしたと判断され、最終的には麻酔薬の過剰投与という方法で処分されるのである。

昔は、ほんの少しの実験をしただけで、次から次へと犬を処分していたことがあった。いまから思うと、動物の命の無駄遣いという状況であった。

しかし、1970年頃から、動物に対する人間の接し方が変わり、「3R」(注)という福祉思想が普及して、実験動物に対する考え方が世界的にも見直されてきている。

(注)3R

専門家の間では、「3R」と呼ばれる動物実験に対する考え方がある。1959年にイギリスの学者たちが提唱したもので、次の3つのことに要約される。

1 動物を使わない方法の採用 (Replacement)

2 動物を使う数の軽減 (Reduction)

3 動物の苦痛の軽減 (Refinement)

つまり、動物をできる限り使わず、動物たちの痛みをできる限り軽くし、そして、コンピューターによるシミュレーションや人工的動物、器官などを使って、動物そのものを用いない方法を工夫し、実験に採用するという動物福祉の考え方にもとづいた提唱である。

実験動物も、ペットや人間と同じように大切な命である。

そういう考え方にもとづいて、実験動物をむやみに処分しないという福祉思想が現代では世界的な流れとなってきている。

生物医学関係の雑誌に発表された論文を比較したアメリカの学者の報告によると、こうした運動の成果によって、ここ30年間に動物を使って行った研究の数が30パーセントも少なくなっていることが報告されている。