アンが亡くなって数年後のある日。職場の管理室前に大きな包みが置かれてあった。中を開くと、毛布、ペットフード、缶詰、現金三千円が封筒に入っており、手紙も同封されていた。手紙の文は「ワンちゃん、いつもありがとう!私たち病人の為に犠牲になってくれて感謝してます。僅かだけどこれで美味しいものを買ってもらって食べてね!」とだけ書いてあり、名前も住所も無記名であった。たぶん、入院患者さんか外来患者さんからのプレゼントだと思ったが、実験動物の為にこのような差し入れは一般の人から初めてだったので、送り主を探すために病院中を駆けずり回ったが、結局はわからなかった。最終手段として、新聞に投稿して感謝の意を伝えたところ、ある方からの情報でご本人が現れた。その方は癌の末期患者さんで、いつも犬の泣き声がする実験室に来ては何とか感謝の念を伝えたいと思っていたということであった。
自分の命があと僅かであっても、私は素敵な家族に見守られて死んでいくことができる。でも、実験犬達は病気でもないのに我々患者の為に健康体にメスを入れられ犠牲になってくれている。その気持ちを伝えたくて、黙って置いていって失礼しましたが、許して下さいということであった。私はとんでもありません、貴方の優しい意思を無駄にしないよう、有難く使わせて頂きますと答えた。その方は三ヵ月後に亡くなられたが、その尊いプレゼントは術後で苦しんでいる犬達にとって最高のプレゼントになったのはいうまでもない。