最初に、病院の先生はゆきの歯を診た。
「この子は、えらい年をとっているみたいやな」
施設での実験のために、2歳と思えないほど歯がボロボロだった。
他の検査もしてもらい、狂犬病予防のための注射も無事終了。ゆきは日本レスキュー協会に生活の場を移した。
その後、感染症の予防のため約1カ月間、他の犬たちとは同じ場所で生活をすることができないため、協会の建物の外で過ごすことになっていた。
いくら犬とはいえ、いままで大学の施設の中でしか生活したことがない上に、1月の寒空の中、いきなりの屋外ではあまりにも厳しい。
トレーナーたちも何かと気を遣い、屋内で暮らせることになった。
ゆきは、みんなから暖かく見守られながら、少しずつ新しい環境に慣れていった。
ケージの中にいた時の生活とはまるで違った。
いまでは散歩も自由にでき、吹く風に毛並みをたなびかせ、暖かい太陽の温もりを感じることができる。
道を行く車の騒音、土手に生える草花の匂い、日の光にきらめく川面…。すべてが初めて経験するものばかりであった。