それにしても、不思議な犬である。
生まれて初めて施設の外に出るのに、ゆきは淡々としていて、表情を変える様子もなかった。
協会が用意していた車に乗せようとしても、決して怖がるわけでもなく、自分から素直に座席にちょこんと座わるほどであった。
まるで、外界の刺激には一切影響されず、自分だけの世界を持ち、マイペースなのである。
大学側の飼育者と佐藤が、「お別れやナー、元気でな、ゆきちゃん」と声をかけた。そして、名残惜しそうに2人は手を振っていたが、当の本人はじっと前を向き、座席に座ったまま何の表情も変えなかった。
やっとのことで施設を出ることができ、命が救われたことに感動しているのは、周りにいた人間だけだった。
こうして、施設生まれのゆきは日本レスキュー協会に引き取られることになった。
2003年1月14日早朝、真っ白な犬のゆきは生まれてはじめて外の光を浴びた。
およそ二年間を狭いケージの中で生きてきたゆきは、大学の施設を出てすぐに、動物病院に向かった。一般社会で生活するためには、きちんとした検査とワクチン・予防接種をする必要があったからだ。