40.童話「狸のポン太一家」

 ここは大阪南部の小さな町です。

昔は自然が多く、山に住む狸やイノシシも安心して暮らしていました。ところが、「開発」という人間様の都合で山が伐採され、ゴルフ場や新しい住宅地が出来ました。泉南市と阪南市の境にある男里地域の山々も同様です。ここに一組の狸一家が住んでいました。仮にポン太一家としておきましょう。ポン太一家はお父さんのポン太とお母さんのポン子、そして子供のポンちゃんの三匹です。毎日、ブルドーザーの音に悩まされ、それまで沢山いたエサになる小動物もいなくなり、とうとう、ポン太一家は引越しをしなければならなくなりました。男里川を下って行くと、海に出ました。近くには大きな焼却場があり、少し環境が悪いですが、海岸には棲み家としては絶好のテトラポットがずらりと並んでます。ここだと、万一、野犬に襲われてもすぐに逃げ込めるし、美味しそうな蟹も一杯います。また、波で運ばれた魚も時々浮いて来ます。「ここに決めた!」とポン太は家族にいうと、手頃なテトラポットの穴に住むことになりました。穴の前はト―フと釣り人に呼ばれているコンクリートの護岸があり、時々、穴から出てはひなたぼっこもできる素晴らしい棲み家になりました。

棲み始めてから5年の歳月が立ちました。棲んでみると外敵もいないし、エサも豊富だし、ただひとつのことを除いていうこと無しの生活でした。その「ただひとつのこと」というのは、こんな辺鄙な場所なのに釣り人が時々来ることです。そして、多くのゴミを放置して帰って行きます。ゴミにはポン太達が食べれる弁当の残りもあるのですが、困るのは空き缶やペットボトルです。そして、もっと怖いのは針のついた仕掛です。時々、ここに遊びに来る鳥さんもこの仕掛についたままになってるゴカイなどの虫エサをついばんで、飲み込んでしまったり、足に絡んでひどい時には、千切れてしまったりしてます。最初にこの棲み家を見つけた時は、それほどでもなかったのですが、最近はとてもゴミが多く、今日、久し振りにポン太一家に会ったトラさんに子狸のポンちゃんからお願いを伝えました。「お父さんはまた、新しい棲み家を探さなければならないのかな?と言ってます。どうか、釣り人の皆さんに自分が持って来たゴミは自分で持ち帰って下さい。ポン太一家の環境を守ることは釣り人の環境を守る結果にもなるのです。」