アンが私達日本人にくれた贈り物……。それは人類とか動物とかの違いを超えた愛情、友情です。
明日をも知れぬ病魔と闘っている重症の患者さんに接する医者や看護師と同じように、いや、それ以上に、実験動物たちに対して、アンは無類の愛情をもって接していました。
ともすれば、試験管やビーカーのように、割れてしまえば交換すれば良いと言われるような存在だった当時の実験動物に対して、我が身を賭して看病したのでした。
親子、兄弟でも下手をするとあやめてしまう今の世の中で、全く見ず知らずの国へ来て、相手の痛みを自分のものとして福祉の精神を実践したのでした。
こういうエピソードがあります。
実験後に殺される運命にあったイヌに、私は数滴の水を与えたことがありました。
大量の水は実験中に嘔吐を起こす危険性があるので、ほんのお湿り程度でしたが、そばで見ていたある研究者は、「何をしているのですか?」と私に聞いてきました。
「末期の水です」と答えました。
その研究者は実験後、イヌの死体に向かって手を合わせてくれました。
アンが贈ってくれた大事なものがその研究者に伝わった瞬間です。
やがて、そのような研究者が数多く増えてきた時こそ、日本が「動物福祉国」に変貌した時だろうと思います。
それが何よりも、アンの目的でした。