90. 「マルコさんのこと」

マルコ・ブルーノさんは二十歳でヨーロッパのオーストリアから来日して現在は東京で生活をしている。動物愛護家としても有名でご自身が主催するグループで捨て犬、 捨て猫の里親探しや避妊、虚勢手術の啓蒙運動も行っている。著書も多く、「マルコの東方見犬録」をはじめ、外国人から見た日本の現状を痛烈に批判している。行政の対応、悪徳ブリーダー、悪徳獣医師、一般飼い主のモラル、動物愛護運動に名を借りたエセ運動家など、どれも動物福祉を実践している者から見れば拍手喝采ものである。

また、作曲家としても有名で、映画にもなったアガサクリスティ原作の「ナイル殺人事件」の主題歌も手がけ、ゴールデンディスク賞を受賞している。私も何度かマルコさんの講演に出かけ、一度はパネルディスカッションで同席したことがある。歯に絹を着せぬマルコさんの語り口はご本人も承知しているとおり、批判対象となる人たちには強烈なインパクトを与えるが、誰もが思っていてもあれだけのことは言えないだろうなという印象を抱いた。数々の名言があるが、その中で特に私も同様の疑問を感じている項目をひとつだけ紹介しておきたい。

動物愛護センター、動物保護センター、動物指導センターという名前から貴方はどんなことを想像する?

動物を大事にするところ?捨てられた犬猫を保護するところ?飼い主に見放された動物を訓練し、里親を斡旋してくれるところ?

違う・・・答えはみんな違う。日本各地にある、これらのセンターは動物を保護したり、愛情をかけて飼育するところではなく、不要となったペットを殺して処分するところだ。

それは「殺処分」という。そのうえ、殺し方は残酷だ。一般に安楽死といわれているが、 現実はナチスドイツのガス室と同じようなむごい殺し方だ。中にはガスで死ねない丈夫な犬もいる。このコたちは生きたまま火葬されることも少なくないそうだ。  

考えるだけでも背筋が寒くなるような現状ではないか。この現実を国民から隠そうとする行政は臭いものに蓋をするかのように、これらの施設に「愛護」や「保護」というカムフラージュを使う。中略

動物に関しては日本はこういう国だ。多くの税金を使っている割には行政で運営している本物の保護センターは一ヶ所も無い。世界の先進国の中ではこんなめちゃくちゃな国は珍しい。

以上であるが、たったこれだけの文章でマルコさんの人柄がわかって貰えると思う。 日本に憧れ、日本で住んで多くの素晴らしい友人に恵まれたマルコさんであるが、動物愛護に関しては今でも納得できないことが多く、日々、行政との闘いの中で暮らしているらしい。

拙著「カタカナの墓碑」を謹呈させていただいた時、マルコさんから丁寧なメールを頂戴した。「涙が流れて止まりませんでした」と書いてあった。きっとマルコさんの頭には単身、日本に来て苦労した挙句、亡くなってしまったアンの姿とご自身の姿が一瞬よぎったのであろう。