仕事を通じて学会や研究会に入ることは最新の情報を得たり、仲間とのコミュニュ ケーションを図る意味ではとても重要である。
専門分野の方ばかりなので、そういう方の知識を通して、自分の置かれている立場や能力も客観的に判断出来る。
通常、学会は年に一度から二度行われ、各地区で持ち回りで開催されている。私自身も複数の学会員に登録しているが、すでに入会してから三十年以上、経過した学会もある。
当初からのメンバーは定年で去ったり、途中脱退したりで、少なくなったが、今でも数少ない昔のメンバーと会えばまるで同窓会のような親しさで親交を温めることが出来る。むしろ、職場にいる時よりもほっとすることのほうが多い。
会員数が増えるに従って会場探しも大変で、東京や大阪ならば問題ないが、地方でやる時は役員さんは苦労する。千人近い参加者が一堂に介して聴講出来る会場は少なく、どうしてもA会場、B会場、C会場という具合に分離方式で行わなければならないからだ。そのぶん、会場費は高くなるし、お世話をするスタッフも大勢必要だし、何より参加者がプログラムを見ながら各会場を上手に回らなければお目当ての研究発表が見られないという不具合も生じて来る。
しかし、不思議なことにローカルで開催したからといって、参加者が減る訳でもない。むしろ、大都会で行われる学会よりも多いくらいである。
その理由のひとつに、地方の支部役員が努力して全国の会員さんが喜んでもらえるようなイベントを考えたり、地方独特の文化や料理に出会える楽しみがあるからである。昔から学会は研究者のお祭りだと言われているが、当たらずとも遠からずである。
私が役員になった時に提唱させて頂いたのは、「発表と懇親会は学会の基本である」ということだった。まだ、二十歳代だった若い時に初めて学会員となり、最初の発表をさせて頂いたが、壇上で喋った内容も覚えていないほど、緊張した。たった8分間の発表であったが、「どうか難しい質問は来ないように」と心で念じていた。幸い、フォローしてくれるような質問だったのでほっとして壇上から降りた。
その後の懇親会では知人もいないので、会場の片隅で一人でビールを飲んでいたら、 私の発表の座長をしてくれた方が来て、「こんな隅っこにいないでこちらにおいで」と中央のテーブルに連れて行かれた。そして、「阪大から発表したのは佐藤さんが初めてだったので我々役員も嬉しかったよ」と言ってくれた。その言葉でこの学会がいっぺんに好きになった。
その後も毎年、欠かさず参加したが、手弁当であるにも関わらず参加している、同じ実験動物仲間が増えていく喜びを感じさせてもらった。最初の頃はちんぷんかんぷんだった他の発表も、慣れていくに従って理解出来るようになっていった。そうして、何十年という時が経って、今度は自分がお世話をする番になった時、懇親会の片隅で一人で飲んでいる初めての参加者には「こちらにおいで」と促すようになった。相手は緊張でガチガチの態度であるが、次第に打ち解けてくれるのが嬉しかった。他の役員にもそれを提唱させてもらったが、関西支部だけでなく、各支部も率先してそれを実践してくれた。また、座長をしていても、初めての発表者には事前に打ち合わせをして、「気楽にやりなさいよ」と伝えたり、発表者を困らせるような意地悪な質問があっても、やんわりと質問者に時間打ち切りを伝えたり、色々と策を労した。
今は役員も若い人が台頭し、まさに「老兵は去るのみ」という状況であるが、こういう心遣いだけは忘れないで受け継いで欲しいものである。二年後には関西支部が再び全国総会の世話をするが、これが私にとって最後の地元開催に出席するチャンスである。