87. 「交通事故」

毎年、交通事故で死亡される方は一万人を超えている。「交通戦争」と言われるくらい、日本の状況は悲惨である。余程のことがない限り、日々、死んでいく被害者のことは新聞やテレビでも報道されなくなった。

このような当たり前の死亡事故に加えて統計的にいったい、どれくらいの交通事故が起こっているであろうか?即死も含めて重傷者、軽傷者を入れるととんでもない数字になるはずである。

実際の戦争でも年間 にこれだけの犠牲者が出ることは少ない。先の大戦では未曾有の犠牲者が出たが、最近の各国で勃発している戦争でも考えられない数字である。

車は走る凶器だとか、棺おけと呼ばれているのも無理はない。こちらが安全運転を心がけていても相手があることだから、一方的に犠牲者になる可能性は充分あるし、例え車に乗らなくても歩行者でさえ危険に晒されることは日常茶飯事である。

先日も危うく衝突事故を起こす寸前で回避した経験がある。一旦停止を確認して右折しようとしたら、猛スピードで 突っ込んで来た車があった。慌てて急ブレーキを踏んだら、あと数センチもないところで相手の車が止まった。若い女性ドライバーであった。車から出て来て「すみません」の一言もなく、自分の車に傷がついていないかを一生懸命調べているのである。

呆れてものも言えなかった。最近はこういうドライバーが増えているのも確かである。歩行者をはねて、すぐに二重事故を防ぐ手段を講じたり、直ちに救急車を呼ぶ手配をしなければならないのに、まず最初にしたことは自分の車の痛み具合を調べている手合いである。人の命より愛車のことを大事にする輩に多く、ある意味精神的に欠陥を持っているのではないかと疑ってしまう。

車は単なる交通手段であって飾り物でもないし、生命を持たない機械であるが、その丈夫なボディは運転手の身体を守ってくれているのである。自損事故でも多少、傷がつこうと、凹もうと「ああ、これで済んで良かったな」くらいに思えないのだろうか?私などは自損事故を起こしたり、他人から当てられて壊れたとしても、自分も含めて同乗者に怪我がなかっただけでもほっとする。

家の中がひっくり返っていても、車だけは毎日、ピカピカに磨き上げ、車内の飾り付けに凝ったり、土足厳禁などの車を運転しているドライバーもいるが、そんな人に限って、愛車を気遣うあまり、友人などを乗せても逐一、その人の汚れ具合や行動を気にする人もいる。

例えば靴が汚れていたり、シートベルトを元に戻す際にどこかに触れて金属音をしただけで「汚れを落としてから乗ってよ」とか、「もっと優しく戻してよ」と言う人もいる。

土砂降りの雨が降って来て、一刻も早く乗車したい人は靴の汚れなんか取っている暇はないし、自動的に戻るシートベルトにまで気を使う人は少ないと思う。ローンで買った愛車を少しでも汚したくないし、かすり傷をつけたくない人は一人で運転することだ。そして、事故を起こしてもひたすら自分の運転の未熟さを隠して、相手が悪いと主張すれば良い。但し、被害者になっても一切、加害者には文句を言わず、大事な車に傷をつけたことをお詫びすれば良い。