71. 「禁煙」

義父が亡くなったのを機に禁煙をした。

実は今回で二回目の禁煙なのだ。一回目は二十年程前に扁桃腺の除去手術の後、一年間はやめた。元々、熱が上がりやすい体質で、このままではネフローゼになると医者から言われ、手術を決断した。

タバコを吸っている人は麻酔時に大量の痰が出るので、しばらくは我慢しなさいと言われたので、そのまま手術が終わっても禁煙を続けていたのだが、ある日外科医と一緒に飲みに行った際、「どうですか一本?」と言われた言葉がきっかけで再開してしまった。

やめるのは苦労したのに、再開は簡単だった。その後、ずっとチェーンスモーカーを実践していたし、昨年末の海外旅行でも半額になるマイルドセブンを大量に購入したばかりだった。

それが、正月を迎えて義父が急死し、葬儀も万端とどこおりなく終えた日から突然、やめようと思った。ちょうど、長兄からも「葬式の時にお前が咳き込んでいるのを見て、心配だった。いい加減に禁煙したらどうか?」と書かれてある手紙が届いた前日だった。

兄には電話で「偶然だけど昨日からやめたよ」と言うと喜んでいた。決して、昔から仲の良い兄弟とは言えないのだが、やはり弟の健康は心配だったのだろう。

ところが、やめてから別の心配なことが起こった。体重の増加である。それも二ヶ月で5キロも太ってしまった。口寂しいので職場の机にもいつも飴や菓子が載っているし、就寝前の過食は肥満の原因であるのを充分承知しているのだが、自宅では食が進むのでいくらでもお代わりが出来るのだ。

元々、小太りなのにこれ以上太ったら身動きが辛くなるのである。これまでは釣りに行ってもテトラポットの隙間も難なく飛べたのに怖くて飛べなくなってしまった。

タバコによる血圧の変動よりも肥満による血圧の変動のほうが心配になって来た。もういい加減な年齢なので、スリムになってカッコ良く、女性陣にモテたいとは思わないが、やはり、健康のためには痩せなければならないとひしひしと感じている。

禁煙でこれだけ爆発的な体重増加があるということは如何にタバコというものは身体に悪影響を与えているかの証明みたいなものだが、昨今の禁煙ブームで、今まで見えてなかった部分が見えるようになって来たのも面白い結果である。

まず、喫煙場所を探そうと必死にならなくて良いし、大学でも喫煙者が肩身を狭くしているのに対して、自分もあのような立場だったのかと客観的な目で見つめるようになったこと。一ヶ月で約2万5千円もの節約となったこと。これは270円のタバコを毎日3箱吸うとこのような計算になる。本当に無駄な煙を排出していたことを反省している。

それから、これは一般の人と少し違うかも知れないが、横で吸われていても気にならないこと。というか、かつての喫煙者心理として、わざとのように手うちわで煙を追いやるような行為はしたくないというのが本音である。住み分けというか、喫煙者がうっとうしいと思うならば近くには行かないことだし、彼らの心理もわかってあげて欲しい。 最初から吸っていない人はともかく、かつては喫煙者であった人が如何にも迷惑だというような態度は私ならしないというだけである。まあ、元ヘビースモーカーの勝手な言い分かも知れないが、本当に身体のために悪いものなら堂々と国が介在して売るのもおかしいし、禁煙運動を真剣にするならいっそのこと、販売をやめれば良いと思っている。吸いたくても無かったら自然と喫煙者も減るのは自明の理である。