59. 動物実験と代替法

あるサイトで動物実験と代替法についての質問を頂戴しました。

私は研究者でなく、一技術者であることをご承知の上で書かせて頂きましたが、管理人さんはもとより、ゲストの方にもご理解を頂いたので大変、嬉しかったです。いたずらに一方的な情報により、動物実験反対を叫ぶ人やそうでない人も含めて、現在の動物実験とは、代替法とはどんなものかということを一緒に勉強していただけたらと思い、再度このコーナーに再現してみました。なお、文章がわかりやすいように、追加や削除もしてあります。あくまでも私個人の考えですので、関係者全員がこのような考えを持っているかは不明です。それを勘案したあげく、お読みください。

「移植実験は犬が多く使われていると聞きましたが?」

動物を使った実験は膨大な数字に及ぶので、全てにおいて説明は出来ませんが、少なくとも移植実験はヒトと生理学的、解剖学的相似性があるから使われているのが現状です。特に肝移植実験ではミニブタが使用されることが多く、比較的、免疫学的にも拒絶反応が少ないという理由で使われております。ご存知のように移植実験ではドナーとレシピエントに別れて、臓器提供側の動物は処分されます。また、このような手術は相当な出血傾向があるので、輸血用の動物を確保しなければなりません。もちろん、輸血用の動物も全採血されて、処分されます。ただ、誤解を与えたくないので、付け加えますと、このような処置はすべて全身麻酔下で行なわれていることを知ってほしいと思います。よく麻酔も無しで実験をしているという事を何の根拠も無く書いている人がおりますが、これはまったくの出鱈目であります。そして、一頭の動物を無駄にしないよう、処分される動物で必要な組織や器官を貰い受けて研究をしている人もおります。カナダのある大学では輸血専用の犬がいて、全採血せずに、少しずつ採血したものをプールしておき、移植手術の際に使っているという所もあります。このような輸血専用犬は、とっても大事にされており、栄養管理も行き届いております。このあたりが日本とは大きな違いで、日本の移植実験でもこのような配慮が必要なのではないかと私は思っています。

「代替法にはどんなものがありますか?」

皆さんは代替法というのはCPシミュレーションや人工的動物、器官を使ったものだけと思っていらっしゃるようですが、そもそも、動物実験代替法とは科学研究や教育、毒性試験、生産等の目的のために動物を用いる方法を、動物を用いない方法に置き換えること(Replacement)であり、動物使用数の削減(Reduction)や動物使用に伴う苦痛の削減(Refinement)を含むもので、もともと動物愛護の精神から来ているものです。ですから、いくら高価だろうが、それが使用数の削減や苦痛の削減に繋がることであれば、シミュレーション法を用いることに関しては、結果が伴えば研究者は賛成してくれるでしょう。それにこの3R以外にもresponsibility(責任)という項目を付け加えて、最近では4Rと呼ばれています。ですから、実験動物関係者なりに努力しているということはご理解ください。

ただ、残念なのはすべての学会において、このことが反映されているかどうかといえば?です。むしろ、あまりメジャーでない実験動物関係の学会や研究会のメンバーが真剣に考えているのに対して、生理学、生化学、外科学、解剖学、薬学等の学会でどれだけ議論されているか疑問です。

これまでの動物愛護や福祉に関する所属官庁は総理府でしたが、今は環境省が所管になっているようです。ですから、これらの啓蒙活動は環境省が軸になって他の学会に働きかけて欲しいと願ってます。

「倫理と動物実験の成果の重要性について~ゆきちゃんの抜歯と処分した犬」

倫理と実験の成果を天秤にかけることは出来ないと思います。

極めて情緒的な問題なので、私のエッセイの隅々まで読んで頂ければ、一技術者として出来ることの範囲がお判り頂けると思います。抜歯の件について必要性を論議していたら、すべての実験系の必要性まで問い掛けることになりますので、これはやめましょう。私の立場で離せる範囲を超えてますから。基準についても昭和55年に施行されたものは狂犬病予防法に従って、大学の犬を注射しなさいということにはまったく触れていません。必要な健康管理とはむしろ、フィラリアの予防、ジステンパーなど、犬独自の病気を予防することのほうが大事だと個人的には思っています。いきなり改正された基準ですぐに対処しろと言うほうが無理な話だと思いませんか?これは獣医師法にも関連してくることなので、残念ながら、私の立場ではどうすることも出来なかったというのが本音です。

一方的な質問攻めでは困りますので、今後は私ならこういう風に改善したいとかの代案も書いて下さい。

「新薬開発について」

次は失明の原因となる緑内障の実験について、私の経験を述べさせて頂きたいと思います。私は実験外科のことは自分でも経験して来たので、ある程度の答えは出来ますが、新薬開発のことになるとどうも、はっきりと導き出すことが出来ません。治験と称して、ボランティアを募って臨床試験をしている所もあると聞いておりますが、その実、とても割に合うアルバイトだとも聞いています。バイト料がそれだけ高いということはかなりのリスクが伴っていると思いますが、動物実験で通過した新薬を患者さんに使う前に健常者を使って答えを出すというか、厚生労働省の認可を受ける為の手段というか、とても危険な行為のように思っております。かなり昔の経験ですが、緑内障モデルのウサギを使って実験をしたことがあります。もちろん、研究主体は眼科の先生ですが、自然発症の緑内障ウサギの眼圧を計測する技術をたまたま、開発したので、その方法を元に先生が開発した眼圧降下剤の効果を試す実験でした。

そのウサギを発見したのも私でした。牛眼様病変といって、眼圧が異常に高い為に内圧亢進が起こり、眼球が飛び出してしまう病気です。

重度の場合には全盲にもなり、その原因は今でも判らないそうです。

緑内障は高眼圧のため、視神経を圧迫するので、その為の激痛で見えなくなっても良いから眼球を取ってくれという患者さんが絶えないそうです。

先生の新薬を投与すると、嘘のように眼圧は下がりました。

そして、激痛の余り自傷行為を繰り返していたウサギも大人しくなりました。

このように、薬の開発も決して無駄ばかりではなく、本当にそれらを欲している患者さんの為を思うと、やはり、研究開発は必要なのではと思いました。

他の命を奪い、生き長らえている人間の矛盾点ですが、せめて我々人間に出来ることは「感謝」の二文字を忘れてはならないことだとつくづく思っています。