50. 「レスキュー協会見学会とゆきちゃんのその後」

 過日、新設となった日本レスキュー協会の見学会に行って来た。この建物の建設計画については色々と紆余曲折があり、新聞にも「僅か十数頭の為に」とか、「大阪市から野犬譲渡を断られる」とかのニュースが掲載され、理事長まで責任を取って辞任するなど、スタート時点からつまずいていた。私自身もこの協会から講演を頼まれたり、実験犬「ゆきちゃん」を引き取ってもらい、セラピードッグへの道を切り開いてくれた経緯があり、何故?という気持ちを持っていた。実際にこの目で建物を見て、噂が本当なのどうかを納得したかったので、見学会二日目に申し込みをして、友人の車に同乗して、行って見る事にした。建物は伊丹空港の近くにあり、周囲は川に挟まれた野原で、近隣との苦情が出るような環境ではなかった。中に入って見ると、一階は展示室と事務所、それに譲渡された犬のケージが並んだ部屋と簡単な治療が出来る処置室とX線室の構成になっていた。二階は子供やお年寄りと一緒にセラピードッグが遊べる部屋として、キッズルームと、見学者用の談話室(ここでビデオなど見れる)があり、詳しくは見なかったがドッグトレーナーの居室も配置されていたと思う。また、川原にはトレーニング用の設備を整えた大きな広場も確保してあり、自治体の野犬収容所やゆきちゃんのように救出された犬の訓練を行えるような立派な建物であった。この建物の設置基金は協会が行っているドッグトレーナーの学校の入学金や授業料、そして、一般からの寄付金で賄われており、趣旨には何の問題もあるとは思えなかったが、それでは、何故、新聞や自治体からクレームが出たのかというと、残念ながら、同じ動物愛護関係からの苦情が原因だということがわかった。スタッフもいない、資金力も無い一般の愛護家から、「僅か十数頭の犬を助けるために莫大な金を使って」というようなクレームが投書として新聞社に寄せられたことが原因のようだ。それに呼応して、自治体もそんな協会に年間、数千匹に及ぶ一部だけを譲渡しても仕方がないということで断ったのが経緯である。なんとも情けない話である。多頭飼育で問題になっている現状を見ても、単に捨てられた犬や猫を無尽蔵に引き受け、エサや水を与えるだけで動物愛護と思っている自称「愛護家」が多い中で、協会が行おうとしていることの趣旨を理解していない人が多過ぎるように思った。自分達の愛護活動以外を認めない風潮は、この世界に多く見受けられるが、同じ目的意識を持っているはずの個人や団体が何故、反発し合わなければならないのだろう。結局、ゆきちゃんの問題にしても、一部の愛護家が騒がなければ、他の犬は処分されることはなかったことを思い出して欲しい。動物実験の問題にしても反対か賛成の二元論しか考えず、歩み寄りを拒否する人達もいる。私のような弱い立場の技術者に対しても、動物実験の是非を問い、味方に引き入れようとしたり、明確な答えが導き出せなければ、対角線の人間と位置付ける人もいる。悲しい人達であるが、こういう人達には何を言っても無駄なので、適当なお付き合いをさせて頂いている。協会の施設は確かにケージ数は11頭ぶんと少ないが、この中にいる元捨て犬、不要犬がレスキュー犬やセラピードッグとして、世に出た時にどれだけ多くの人の精神的支えになるかを考えると、決して少ない数値ではないのである。理想としてはすべての犬や猫を平等に救出出来れば良いのが当たり前だが、現実の対処としては自分の置かれたキャパシティに合わせた活動をするのがふさわしいと思う。例え、一頭の犬を保健所に貰いに行って、家族の一員として迎えるも良し、飼える環境の無い人であれば、福祉活動で困っている団体や盲導犬、聴導犬協会などに寄付行為をするのも良いし、お金が無ければ古い毛布やタオルでも良い。正しい情報を得た上、キャンペーン活動としてビラ配りをするも良しで、あらゆる手段が取れるだろう。人間に見捨てられた動物を救出するのは心の問題である。心の豊かな人は他人の行っている活動を非難することなく、マイペースで自分の信じた道を歩んでいる。現にそういった方も多く見受けられる。特にこのHPに来られるゲストの方には少なくとも心の貧しい人はいないと信じているし、出会いを感謝している。

見学に行った際にゆきちゃんと再会した。彼女は10月から特養ホームのセラピードッグとして、第二の犬生を送ることになる。癲癇症状を持った決して健康体の犬ではないが、恐らく、そのことを差し引いても、心優しい人々に可愛いがられて、最後までお勤めをしてくれることを信じている。