その日も手術実験室の清掃を終えて、屋上の回復室の清掃をしようと階段を昇ってゆくと、見慣れない外国人女性がホースを持って部屋の床を洗っていました。
時々、留学生や外国人研究者が来ているので、たぶんその様な人かなと思いましたが、これまで清掃までするような学生や研究者は見たことがありませんでした。
そのうち彼女もこちらに気がついたらしく、ニッコリ笑って挨拶をしました。
もちろん、話している言葉は英語なので、残念ながら私には何を言っているかさっぱり理解することが出来ません。
私はしかたなく愛想笑いを返しただけで、一体何者だろうと不思議に思いながら、その日は管理室に戻りました。
ところが、翌日も彼女は来ているのです。同じように竹箒を持って室内を綺麗に清掃し、どこから持ってきたのか、実験中の犬に肉の缶詰を開けて食べさせたり、牛乳を飲ませたりしているのでした。
私には研究者のイヌを管理している立場上、責任があるので、むやみやたらにエサを与えてもらっては困るのですが、残念なことに私は英語を話すことができません。
仕方なく動物委員会の先生に相談することにしました。その結果、ある先生が仲立ちとなって彼女が来ていることがわかりました。
日本動物福祉協会から、日本の動物実験施設で是非働きたいというアンの希望を叶えさせてやって欲しいという要請があり、その先生を通して動物委員長の了承もとってあったのです。