下記のメールを代替法活動をしている獣医学生の方から頂戴しました。実験動物技術者の私個人としても、彼らの活動に対して、全面的に応援しています。「カタカナの墓碑」をご覧になっている方で主旨をご賛同の方は是非、連絡をしてあげて下さい。○○さん自身のメールアドレスに直接、アクセスして頂ければ良いのですが、異議のある方や反対の立場の方は当掲示板で書き込み下さい。私からレスは返しませんが、そういう意見もあるという事で掲載します。但し、中傷、誹謗のような書き込みはすべて、削除させて頂き、以後の入室はお断り致します。彼女への電話やメールもふざけたような内容は慎んで下さい。
「獣医学生にご協力下さい」
ご無沙汰しております。
○○大学の○○と申します。この度は、獣医学科での実習に関するご相談をさせていただきたく、メールさせていただきました。
私が参加しております「○○ネットワーク」(以下ネットワーク)の中から有志を募り、獣医外科学実習における新たな方法~Humane Society Programについて今夏より調査を行ないます。それにあたって、どうかご協力いただけると幸いです。
まず、このネットワークについて説明させていただきます。
このネットワークは平成13年の12月に、元臨床獣医師でおられる○○先生と獣医師の○○さんが主催された○○市民フォーラムでの集会から始まりました(詳しくは獣医学教育改善ホームページをご覧ください)。参加者は獣医学生・他学科学生・獣医師・教員・社会人など約70名から構成されており、現在では主に学生が活動の主体となっております。活動形態は、メーリングリストでの意見交換および連絡と月に一度の勉強会が主ですが、今春には全国の獣医大学を訪れての”○○展示会“を開催させていただきました。
(代替法とは、動物への苦痛や殺処分を伴う従来の実習に代わる方法であり欧米の大学では広く採用されています。)
ネットワーク発足以来、各自が獣医学教育で用いられる動物達について考え、悩み、議論など交わしてきたわけですが、そろそろ具体的に何か出来ないだろうか、と考えた第一歩として○○展示会を開催させていただきました。この経験により、これまで知らなかった各大学の状況を大まかではありますが知ることができました。また、直接および(我々が採らせていただいた)アンケートを通して、多くの学生や教員から動物を利用することについての各々の考えを聞かせていただきました。
それらを踏まえたうえで、次に学生の私たちにできることはないかと考えた結果、獣医学科では様々な場面で動物を用いた実習が行われますが、中でも外科学実習に焦点を当てて取り組もうということになりました。現在日本には16の獣医学科が存在しますが、そのほとんどの大学において、外科学実習を行なう際には実験動物として学校が所有するビーグル犬を用い、実習後は殺処分が行なわれます。一方、欧米、特にアメリカでは、多くの大学でHumane Society Programという動物を犠牲にしない、生かすための外科学実習が行なわれています。具体的なHumane Society Programの説明として、○○さんの卒業論文より抜粋させていただきました。
「現在殆どのアメリカの獣医大学が、実習の一項目として採択している制度である。
これは、地域のアニマル・シェルター(動物虐待防止協会など)との共同プログラムで、シェルターに収容されている犬・猫に、外科医スタッフの監督の元で不妊手術や去勢手術を行うものである。
これらの犬・猫は、術後回復した後シェルター(提供者)に返却され、里親譲渡を待つことになる。アメリカの獣医大学において広く普及しているHumane Society Programについては、以下のような利点が挙げられる。
1)麻酔覚醒後のケアを行うことができる。
2)手術後の回復経過をみることができる。
3)動物を「生かす」ための手術であるため、慎重かつ真剣になる。
4)不妊手術を施すことで動物の里親が見つかりやすくなる。
5)犬・猫の頭数過剰問題(ペットの社会問題)を学生に知らせる良い機会となり得る。
(出典:○○卒業論文要旨)」
私達はこのプログラム(正確には欧米を参考にした日本版Humane Society Program)が新しい獣医学科の外科学実習のカリキュラムとして、日本でも近い将来採用されることを望んでおります。その理由としましては、上記に挙げられている利点が私たちの考えているものとほぼ一致します。
大まかには、
A)動物の苦痛・犠牲の削減。
B)学生への倫理的教育効果。
C)技術的な教育効果。
以上の三点が得られるであろうと考えられます。
これまでの日本の獣医学科では、C)を中心にカリキュラムが編成されていたと思いますが、それにも拘らず、新卒の獣医師は使えないという言葉が聞かれます。他方、欧米の獣医大学ではA)B)にもよく考慮したうえでC)に関しても、新卒が即戦力になるといいます。一概に、互いの一側面を指して結論づけることはできませんが、単純に同じ学問を学ぶものとしては羨ましいというのが本音であります。もちろん技術は必要だと思うのですが、高度な技術はそれに見合った高い倫理観を伴う者が扱うべきではないでしょうか。
技術や知識の重要性を認めた上で、A)B)は時代の流れからみても無視できない問題です。環境の相違はあっても、海外での実績を参考に日本で実行可能な方法は見つからないことはないのではないでしょうか。技術だけではなく、A)B)を伴った技術の教授が望まれますが、理想論に終わらないためにも獣医学的見地からHumane Society Programの正当性が示される必要があるでしょう。
この点は、学生が示すことは困難なので是非教員や獣医師からの検討・評価を得たいと思います。これほどたくさんの動物達を殺さなければ本当に獣医師になれないのだろうかという疑問があります。臨床へ出た際、目の前の動物が精神的・肉体的苦痛を負っていると判断すれば、その苦痛を取り除くことに努力しその子にとっての最善をつくすでしょう。それと同様に、実習で使われる動物一頭の命に対しても学生・教員問わず一人一人がもっと真剣に捉えるべきです。命が関わってくる重要な問題であるという事実は、実験動物という言葉により、ぼやけてしまっている感があります。
仮に実験動物であることに犠牲の妥当性を見出すのであれば4Rの徹底、および徹底に努める姿勢が不可欠になってくると思うのですが、学校の動物が呼ばれる”実験動物”という言葉と、彼らの生活環境を照らし合わせると矛盾を感じます。現在の日本の獣医学科では、命を救うための技術や知識を多くの動物を犠牲にすることで学ぶカリキュラムになっています。他方、Humane Society Programでは、生かすための技術や知識を、生かすための実習で学べることが大きな利点だと思います。前提として殺処分が存在する実習では、如何に動物に対して苦痛を与えないかが最大の課題である気がします。その先に命の継続という課題を設けることで、より多くのエネルギーを要すであろうと思いますが、その労苦以上に動物を生かすという事実と学生が得るものは大きいはずです。動物を救いたいという気持が動機となって獣医学科へ入学した学生は少なくないでしょう。しかしながら、救いたいという気持ちと殺す実習が相反するが故、将来多くの命を救うためには目の前の一匹を犠牲にすることは仕方がないという論理により犠牲が伴う実習を受け入れていくか、中には学校を去る学生も存在します。動物を殺すことを含めて学校が定めたカリキュラムは絶対的なものに近いのにもかかわらず、倫理や福祉の講義が十分になされることはなく、全体的には各個人に気持の消化が求められます。せっかく動物を救いたいという優しい気持を持った学生が獣医師の道を断念したり、その気持を殺さなければ学べないというのは残念なことだと思います。
Humane Society Programは、動物を救いたいという気持と実習の目的が一致しているので技術や知識を学ぶ行為に集中できること、そして命を救うことで自信と達成感を得られることも利点の一つだと考えられます。これらに加えて、従来の実習以上に社会への還元。が利点として考えられます。社会へ獣医師を輩出することで、大学は、社会へ一つの還元をしていますが、Humane Society Programは長期的および短期的にも社会へ貢献できるプログラムだと考えます。今や社会問題ともいわれる捨て犬猫問題ですが、上記の4)不妊手術を施すことで動物の里親が見つかりやすくなる。は、日本においても考えられます。実は既に、ある地域において、Humane Society Program開始後の大学地域の殺処分数の推移が数字に表わされています。長期的にみると、「5)犬・猫の頭数過剰問題(ペットの社会問題)」を、学生に知らせる良い機会となり得る。このことで、将来的にこの問題に取り組む獣医師が増える可能性は増加します。捨て犬猫が毎年どれくらい殺処分をされているのか、知らない獣医学生は少なくありません。しかし、身をもって捨て犬猫問題の一端に触れることで、身近な問題の一つとして認識することに役立つのではないでしょうか。先に、日本の外科学実習について触れましたが、実は今国立大学を中心に少しずつ獣医学科の動物を利用した実習に変化の兆しがみられます。
動物を利用した実習は、外科学だけではありませんが、外科学実習における新たな試みが目立ちます。試験的に代替法教材を授業で導入する大学やHumane Society Programに似た方法を試みようという大学がここ2,3年で出てきています。保守的ともいえる日本の獣医学科で、このような大学が出てきたことに対しては学生の我々にとっても、非常に喜ばしい限りです。
しかしながら、現在の日本でHumane Society Programを実施するにあたっては、獣医師法に関する問題、大学とその他機関との間に生じうる問題、教員の不足、里親譲渡システムなど考えうる幾つかの問題点が浮上します。獣医師法を例にとっても教員間でそれに対する解釈は異なるのが現状であり、それ故日本でのHumane Society Program実施に対しては否定的もしくは無関心というのが獣医学科全体としての傾向です。そもそも、○○学術集会において、獣医学教育における動物利用のあり方が取り上げられたのは平成14年3月のシンポジウムが初めてです。獣医学界では総論としての動物利用を取り上げはじめたのがこれほど最近な訳ですから、各論としての動物利用が議論の的になるのはまだ当分先のことなのかもしれません。教員の中には肯定的・協力的な意見をおっしゃられる方も存在しますが、その多くは比較的若い先生方であり、現在の獣医学科のヒエラルキーの中で声をあげることは中々難しいようです。我々学生は、そういった教員の方たちの生活を犠牲にしてまで要求はできません。教員がこうした問題に取り組まれるのが本来なのかもしれませんが、私たちがこれまでに見聞きしてきた情報を基に、学生でもできること、学生だからできることを模索しつつ取り組んでいきたいと考えました。
また、このプログラムが採用される際には、獣医学科内の独断で実施することは不可能であり、動物の保護活動に従事されている方々をはじめ、広く一般社会のコンセンサスを得ることが重要であると考えられます。
本来は、動物の幸せという同じ目標を掲げる獣医学科内外の動物に携わるもの同士が、相互に協力しつつ各自の立場で果たせる最善を尽くせば、人にとっても動物にとっても幸せな結果が得られる可能性は広がることは確かであると思います。もうそろそろそんな時代がやってきてもよいのではないかと思うのです。今後の活動の第一歩としましては、外科学実習に関係する状況および問題点を知るというインプットの作業を行いたいと思います。そして、知りえた情報を整理・分析し提案していく、またはHumane Society Programに関心を持たれた教官に利用していただければと考えます。具体的には、法律に関する問題点の調査・獣医学関係者や動物に携わる方々の意識調査(アンケート)・海外で実施されているHumane Society Programの調査などを行い、3月に開催されるヒトと動物の関係学会での発表を視野に入れて調査結果をまとめる方針です。その前段階としまして、日頃動物福祉活動に従事しておられる皆様及び獣医学科教官よりご意見をうかがわせて戴くべく直接お会いできればと考えております。お金と日にちが許す限り何処へでも伺うつもりですので、どうかよろしくお願い申し上げます。お忙しい中、まことに恐縮ではありますが、私たちに時間を割いても構わないという方はご希望の日にち等、下記までお知らせください。
関西支部(注釈) 本エッセイ中の個人情報に該当すると考えられる箇所は隠しております。