41.SF「犬の惑星」

 ここは銀河系宇宙にある第78番惑星「ワンニャン球」。周囲のワン黒星雲に包まれて、普段は見ることは出来ない。住民は約40億人。5つの大陸に分かれて住んでいる。そのうちの大陸からやや離れた島に1億人も住んでいるワンニャン星人がいた。長い歴史で、大陸から移動して来たワンニャン星人がひとつの国家を形成し、独特の文化を作って来たが、周辺国家とも数々の戦争を体験し、完膚無きまで叩きのめされたにも関わらず、数十年で先進国に追いつくほどの住民パワーを見せた国である。国の名は「ニャポン」。この話はそのニャポンにおける人験動物研究の悲しい事実であるが、人験研究用に囚われたヒトから見た檻の中からのメッセージとして受け止めて頂ければ幸いである。

(人験動物施設)

 ニャポンには多くの研究施設が存在し、医学はもとより、薬学、食品化学、交通科学などあらゆる分野でヒトという人験動物が使われていた。その数は年間、数十万人に及んでいた。生まれながらにして、人験用として作出されたヒト以外にワンニャン星人に飼われていたヒトや不要として捨てられたヒトも人験動物として、研究に供され、狭い檻の中で一生を暮らす者も少なくなかった。また、成人していないヒトも人験対象として、扱われ、親と離されたそれらの子ヒトは毎日、施設の檻で泣いていた。

(医学、薬学研究)

 ワンニャン星人にも色々な病気があり、それらの予防、治療の為に多くのヒトが使われており、健康なヒトに対して、病気の原因となるウイルスや細菌を投与して、経過観察をしたり、新薬を開発すればその毒性や致死量を調べる為に多くの薬が実際に投与された。これらは薬学部では日常の学生教育で実施されており、その数は全世界でも膨大な数字になる。また、手術手技を憶える為に実際にメスを入れたり、臓器移植の練習にも使用されていた。ベテランと言われるワンニャン星人の医者になる為にはそれらの人験研究を通じて、学会に認めて貰わなければならず、その為には学生の頃から、ワンニャン星人の命が主体で、他の命は単なる実験材料であると叩き込まれるのである。稀にヒトに対して哀れみを憶えたり、実験を拒否したりすれば、異端ワンニャン星人として周囲から奇異な目で見られるのがこの世界であった。

(食品研究)

 ワンニャン星人の主食は雑食で、何でも食べる為に食品の毒性研究も盛んであった。特に食品添加物の毒性試験は企業のイメージとも繋がる為、独自で研究所を作り、安全性の証明実験がなされていた。ワンニャン星人の中には食べ過ぎによる肥満、糖尿病、アルコールの飲みすぎによる肝臓障害など生活不摂生によって引き起こされる疾患も多く、自らの手で命を縮めることにならないように、少し食事の改善をすれば済むことなのに、こういう理由でも多くの人験研究がなされていることは一般のワンニャン星人にも意外と知られていない事実である。

(交通事故研究)

 ニャポンでは国民の数に比例して車の数も多く、その為に日常茶飯事で交通事故が起こっている。事故を起こすのはワンニャン星人であるのに、如何にも車に原因があるかのように、自動車研究所ではヒトを使って衝突実験などを繰り返していた経緯がある。その理由としては車体のどの部分を強化すれば肉体損傷が減るかといったものだが、それ以外に時速何キロで衝突した場合どのような損傷が起こるかといったものまである。年間、一万人以上のワンニャン星人の交通事故死の例があるのに、それでもこのような実験は必要なのか、不思議であるが、研究者の心理を知りたい所である。まだまだ、我々ヒトには知られていない人験研究がこのワンニャン球全体で行われていると思われるが、戦争の為の実験もあるかも知れない。これまで、充分過ぎるくらい、ヒトを殺し続けてきたのだから、もう、科学研究という美名の為に無駄な実験を止めて欲しいと思うのだが、檻の中からのメッセージはいつ、誰に届くのだろう?