本来なら実験後、処分されるはずの犬が貰われて行った。貰われた先は「日本レスキュー協会」。阪神淡路大震災でも潰された家に果敢に入って行って、活躍したレスキュードッグを訓練しているNPOである。他の活動も老人福祉施設などにセラピードッグとして訓練された犬を譲渡している。先般の講演依頼がきっかけで、この団体と親しくなり、処分するに忍びない実験犬の行き先を相談した。元々、この犬は施設で生まれ、簡単な処置をしただけで2年間をケージ内で暮らしていたものだ。何度もトレーナーが訪れて、観察した後、この犬の性格ならばセラピードッグとして充分通用するということで、実験動物由来としては異例であるが、協会で訓練を施されることが決定した。
何しろ、初めての経験なので当初、私からの依頼に戸惑ったそうだ。一生を狭いケージの中で過ごす運命にある数多くのうち、一頭ぐらい助けてどうなると思ったがこれがきっかけで、一般に実験用として飼い慣らされた犬は他には使い物にならないと言う誤った常識を覆すチャンスだと思った。そして、大学も法人化に向けて改革が進んでいる中、民間との協調路線を他に先駆けて行うのも目的のひとつにあった。もちろん、この話は上司である直属の教授の許可を得て進めたのであるが、数年前なら考えられない行動であった。職場環境は如何に理解ある上司の存在が必要かといった一例である。
貰われていった犬は「ユキちゃん」と言う名前をつけてもらって今、一生懸命トレーナーの元で訓練をしているという。名前からしてお判りだと思うが、雌犬で、切れ長の瞳を持った美人(美犬)であり、非常に素直な賢い犬である。すでに待て!お座り!などの基本動作も覚えたらしいが、早く、大勢のお年寄りの愛玩犬になって欲しいし、残された他の犬の為にも頑張って欲しい。そして、何よりも一日も早く、「使い物にならない」と言う間違った考え方をユキちゃんの行動によって払拭して欲しい。