27.「数百円の命」

実験に使用される犬はつい最近まで「雑犬」と呼ばれる捨て犬、不用犬として地方自治体の収容所由来の犬が多かった。今はビーグル犬がその主流を占めているが、その理由は性格温順、短毛、多産、遺伝的均一性の4条件が実験対象として研究者に認められたからだ。ただ、雑犬に比べて入手するには相当な予算計上を覚悟する必要がある。例えば、雑犬由来であれば、直接、収容所に引き取りに行く場合は一頭数百円の手数料で済むし、中間業者の手によって検疫済みのものでも1万か2万円で済む。ところが、正式にブリーダーからビーグルを購入すると10万円から20万円というびっくりするような値段に跳ね上がる。例え、製薬企業で使用されていたリタイヤのビーグルでも、中間業者経由だと5万円から10万近くもする。

何故、同じ犬なのにこれほど差があるのか?雑犬と呼ばれる犬でも導入した施設で愛情を持って飼育すれば見違えるようになることは知られていない。確かにこれまで可愛がってくれた人間からいきなり捨てられたり、不用犬として収容所に持って行かれた犬は多かれ少なかれ人間不信になっており、施設に来た時はビクビクしたり、噛み付こうとする犬もいる。しかし、このような犬も気長に飼育し、毎日声をかけ、たまには散歩などに連れて行っている間に飼育管理人には慣つくようになる。研究者自ら行っている場合は、その研究者に対しては主人同様の従順さを示す。性格も温順になり、例え長毛種であろうとも、バリカンを使って注射部位を剃毛しても、嫌がらずにやらせてくれる。犬は元々多産であり、ビーグルに頼ることもないし、日本犬は洋犬に比べて難産が少ないし、遺伝的組成もマウスやラットなどの小動物みたいに求められていな いので雑犬、結構、ようするに飼育に関わる人やその環境を支える組織の問題だと思う。    施設に導入された犬がこれまでの環境からもっとひどい環境に晒されるか、はたまた、例え最後には殺される運命でも、もう一度人間に可愛がられるか、大きな差であろう。テレビなどのコマーシャルで「パパ、犬欲しい!」と言うのがあり、そのおかげで数十万から数百万円もする犬が顧客とブリーダーの間で、猛烈な勢いで取引されていると聞くが、安易な考えで購入された犬が数年後に実験動物施設に来ていると言う現実は誰も知らない。雑犬の中には過去に一世を風靡した犬種も少なくなく、命の値段はこういうところでも、「数百円」に落ちているのである。