14:  イギリスへ

アンが亡くなってさらに10年が過ぎました。

お母さんとはこの間も文通を続けていましたが、文末には必ず、いつかアンが育ったイギリスにいらっしゃいと書かれてありました。

職場も様変わりし、古い建物は取り壊され、当時私とアンが働いていた場所もなくなっています。

新しく建った研究棟には立派な動物実験室が設置され、別の建物の屋上にある飼育エリアには、粗末ではあるものの周囲をブロックで囲んだ飼育室が完成しています。

冬の寒さ、夏の暑さに対処するため、エアコンの設備も設置され、このおかげでイヌの死亡率は激減することになりました。

研究者も動物の倫理的取り扱いに注意するようになり、実験中や実験後の死亡率も減少するなど、実験動物の飼育環境が大幅に改善されたのでした。アンの目指していた実験動物への愛護精神も、研究者や技術者の間にやっと浸透してきました。

飼育関係の仕事に若い人たちが台頭するようになり、屋上でのイヌの散歩などは日常業務のひとつとして習慣化されるようになりました。

まだ改善すべき点は多く残されていますが、それでもアンがいた頃と比べて長足の進歩を遂げたのでした。

もし彼女が生きていたら、その様変わりに驚いたでしょうし、泣いて喜んだに違いありません。

英国を訪れて、アンへの報告もかね、墓参しようという長年の願望はいよいよ機が熟してきました。

思い切ってイギリスへ行こうと決心し、準備に取りかかました。