予行演習スタート

早速、ホームの会議の席でゆきの病気のことを報告した。すると、

「大丈夫です。みんなで面倒を見ていきますから。

そんなことで、この話を断ったら、福祉の精神が泣きますよ!」

と全員気持ちよく了承してくれた。石井は、ありがたいと思った。

処分される直前で助けられ、病気を持ったゆきが、いろんな障害をもったお年寄りと共に助け合い、生活する。不思議な縁だと石井は思った。

「真っ白い犬か。真っ黒いマルの生まれ変わりかもしれないな」

そういう思いがふと石井の頭をよぎり、ゆきを受入れることにして本当に良かったなと、1人つぶやくのだった。

小さなことかも知れないが、何かとても良いことがこれから始まるのでは、という希望にあふれる思いが石井を温かく包み込んでいた。

本格的にゆきを受け入れる前に、「慣らし運転」ではないが、少しずつ施設に馴染めるように、日本レスキュー協会のトレーナーの永池と、永寿特別養護老人ホームのトレーナーの田中との間で綿密な計画を立てることにした。

また、永池からは、あまり精神的に緊張するとてんかん症状が出やすいので、その点の配慮もしていただけるよう施設にお願いをした。

午前中だけの訪問にしたり、午後だけの訪問にしたり、時には、泊まりの「勤務」にしたりといろんなバリエーションの勤務シフトを組んで、少しずつ施設にも、職員にも、そして入所されているお年寄りにも慣れて、無理なくセラピー活動に取り組めるように工夫をこらした。