セラピードッグを永寿の施設に導入しようという話が持ち上がると同時に、福祉関係の仕事に理解があり、犬の扱いに慣れているトレーナーが必要になった。
ちょうどそんな時、日本レスキュー協会から石井に連絡が入った。
「関連のジャパン・ドッグ・アカデミーという学校に、田中めぐみという学生がいます。
今、ドッグセラピストの勉強していますが、学校に来る前は、福祉関係で働いていたそうです。
永寿特別養護老人ホームでの仕事に適任ではないでしょうか」
こうして、ゆきのトレーナーとして、採用されたのが田中めぐみであった。
田中は大阪の南、泉州の生まれである。
小さい時に、両親が共働きということもあり、1人で家にいるのが淋しく、特に冬になって真っ暗な家に入るのが嫌だったという。
小学三年生の時に、初めて犬を買ってもらったことがあった。それからというもの、犬がいつもそばにいるので心強く、安心して一人で留守番ができるようになった。
犬とはまるで兄弟のようにして遊んだ。じゃれあったりして過ごした楽しい思い出が彼女にはいっぱいある。
心の優しい田中は、幼い頃からハンデを抱えている人に関心があり、高校時代に進路を決める際、その人達の手助けができる仕事に就けたらと願い、福祉系の専門学校へ進学した。
卒業と同時に福祉関係の仕事に就き、10年間障害を持っている人たちの仕事のサポートをし毎日忙しい生活を送っていた。
そんなある日、偶然、犬と人とが共に社会に貢献することを理念と掲げたジャパン・ドッグ・アカデミーという学校(日本レスキュー協会を応援するドッグトレーナー育成の学校)の存在を知った。
「ヘエーッ、こういう専門学校があるんだ」
「ドッグ」という言葉が目に飛び込んできて、入学願書を取り寄せてみることにした。
人間の都合でもの言えぬ弱者の立場の犬たちが、年間何10万頭も安易に処分されていることに、大好きの田中はいつも心を痛めていた。
小さい頃から犬がいつもそばにいた田中には、この学校の存在がまるで光り輝くかのような魅力にあふれていて、すぐにでも入学したいと考えるようになった。
ジャパン・ドッグ・アカデミーが掲げている理想が実現し、犬の従順さや優秀さ、人に役立つ存在であることなどが広く社会に知れ渡れば、不当に処分されている犬の数がいまよりもずうーっと減るのではないかと考えた。
こうして翌年春、ジャパン・ドッグ・アカデミーに入学して、3年間好きな犬のことについて勉強した田中は、卒業を間近に控えた2002年の秋、学校側から就職の斡旋を受けた。
犬のトレーナーの仕事で、しかも幸運なことに、職場環境が福祉施設であるということであった。
好きな犬のそばにいつもいて、ハンデを持った人たちの役に立つことができる。田中にとっては願ってもいなかったほどの理想的な仕事であった。
「ぜひ、永寿の施設で働きたいと思います。ぜひご紹介ください」
田中は紹介された永寿特別養護老人ホームと連絡をとり、何度か施設を訪問したりした。それは、日本レスキュー協会の伊藤と石井施設長が、セラピードッグの受け入れの件で熱い約束が交わされた直後のことであった。
田中と永寿との面談も順調に進み、セラピードッグのトレーナーとして、翌年の4月からの就職が決まった。
2003年4月に田中が施設に正式に就職し、これで、セラピードッグの受け入れ体制が整ったことになった。