協会がゆきを引き取って2週間ほど経ったころ、1つの「事件」が持ち上がった。
2月に入って、ゆきの様子がおかしいのに職員の一人が気づいた。
2月4日の午後1時のこと、ゆきがバリケン(移動用の犬小屋)内で手足をまっすぐに伸ばし、突っ張っている。
失禁もあった。顔もいつもの表情とは違って、引きつったままだ。
「ゆきーッ! ゆきーッ!」と何度も声をかけ続けると、ようやく意識が戻ってきた。
すぐに担当獣医に連絡し連れていくと、てんかんの症状かも知れないとのことだ。
いまの段階での特別な処置は必要なく、しばらく様子をみてデータをとっていこうということになった。
発作は、環境、気温、気圧、季節の変わり目など、いろんな原因が元で起きるので、注意深く観察をして、こまかくデータを記録していくことにした。
今回の発作の状況から、脳疾患の可能性が大きいと思われる。
しかし、遺伝か、過去の外傷のためなのかは、脳細胞を取って詳しく検査してみないと断定できないとの説明を受けた。
てんかんの症状といっても、1分ほど引きつった表情を示すだけだ。
大学の施設の中では、頭数が多いことと、1頭1頭に対してきめ細かく対応できないという事情もあって、てんかんの症状を見落としていた可能性がある。
セラピードッグとしての訓練に加え、てんかんという障害を持ったゆきの、社会復帰に向けての新たな闘いが始まった。