車に乗って施設を後にした時から、倉田たちは複雑な気持ちに襲われた。
たったいま出会った12頭、全部助けてやりたい。でも、助けたいという気持ちだけでは現実的な解決にはならない。
収容施設はどうする?それだけの犬の面倒を見る人は?費用は?
怯えのひどい犬は、人間に対して信頼を回復するのに非常に時間がかかる。訓練をするにも、困難が大き過ぎるのだ。
悲しいけれど、諦めざるを得ない。
安易に引き取って育てていくことができないのなら、責任を持って育てていける犬だけを選ぶしかない。
辛い選択であった。
選べないけど、選ぶしかなかった。
彼女たちの心に「選ぶ」という言葉が重くのしかかってくる。
捨てられた犬たちを引き取り、セラピードッグとして育て、福祉施設に無償譲渡していくという協会の「セラピードッグ・メディカルセンター」計画がこれからスタートする。
これから何度も何度も繰り返されるであろう、この「選ぶ」ということの難しさと、責任の重さに自分たちは耐えられるのだろうか。
選ばれなかった犬たちのことを考えると、冷静な気持ちを保つことができるだろうか。
自分たちがやろうとしていることの意義の深さを、いま身に沁みて感じるのだった。
帰りの車の中で、平野がこう言った。
「あの子がいいなー。あの色の白い子。色が白いから名前は、ゆき!」
「あら、もう名前をつけたの?」
と笑いながら答え、倉田も「やっぱりあの犬かな」と思った。