不思議な雰囲気を持つ犬

倉田たちは1頭1頭をていねいに見て回った。

ほとんどの犬たちが激しく吠え立てている中で、1頭だけ声も出さない犬がいた。

毛色は真っ白で、その犬だけが、他とは様子が違っていた。

みんながはげしく騒いでいるにもかかわらず、まるで自分だけの世界があるかのようにおとなしくしている。

人が近寄っても、怯えもせず、吠えたりもしない。

ただマイペースで自分の世界に浸っているとでも言おうか、のほほんとしているとでも言おうか、不思議な雰囲気を持つ犬だった。

「この犬、ちょっと外に出してもいいですか?」

そう言って、ケージを開けて平野はその犬を外に出した。

そっと抱き上げてもおとなしくしている。床においても逃げだしたり、暴れたりもしない。

「この犬、しっぽを持っても、ひっくり返しても大丈夫です!」

静かで、おとなしいメス犬だった。

倉田はしばらく、この白い犬をじっと観察した。他の犬がワンワン吠えている時に、その犬だけは少しも吠えずにケージの外を歩きまわっていた。

この犬ならば、人にも好かれ、セラピードッグとしての仕事ができるのではないだろうか?

倉田たちは最後にもう1度一通りケージを見渡し、12頭の犬をしっかりと観察した。

「また別のトレーナーが来るかもしれません。よろしくお願いします」と佐藤に伝えて、3人は施設を後にした。