犬が好きな倉田たちには、「12頭の命を全部助けたい!」という気持ちが強くあるものの、日本レスキュー協会には、一度にそれだけの数の犬たちを収容できる施設のスペースも、人手もない。
12頭の犬たちの中から、何とかしてセラピードッグとして選ぶしか、助ける手立てはない、それが自分達に出来る最大限のことだと考えていた。
「1頭でも出来る限り多くの命を助けて欲しい」という佐藤の希望との板ばさみで、苦しい選択を迫られた。
倉田たちは、セラピードッグに適した犬を見つけ出すために、注意深く観察した。
同行した平野も、ケージを1つ1つ覗き込みながら、犬の様子を見た。
セラピードッグになるためには、性格が人なつこく好奇心旺盛、人に咬みついたりしないことが絶対条件となる。
セラピードッグは、訓練した後、老人ホームや障害者などの福祉施設に譲渡していく予定だ。
施設に入所しているため、他の人との交流が少なくなったお年寄りたちなどと触れ合い、気持ちをときほぐし、社会性を復帰させるという大切な役割をセラピードッグたちは持っている。
今目の前にいる犬たちの特性をしっかりと見抜くという、倉田と平野の責任は大きい。
セラピードッグとして活躍する犬は、人と協調できることが一番必要で、どんな時にでも、動揺することもなく、落ち着いた行動が取れる性格や能力が要求される。
平野は、犬たちがどのくらい人に対して怯えているか調べようとした。
「佐藤さん、ケージを開けてもよろしいですか」
平野は、1つ1つケージを開けて中に手を入れてみた。犬たちが咬付いたりしないか、触っても嫌がらないか、一頭ずつ確認していった。
佐藤が1つ1つのケージを開け始めると、犬たちの吠える声は、前も増して大きくなってきた。
そしてその声は、「ここから早く出してよーっ!」と2人には聞こえてくるのであった。
冷静に、客観的に犬を観察しようとしても、「殺処分」という三文字が頭をよぎり、「12頭とも全部助けたい」という気持ちが強くなり、冷静さを失ってしまいそうだ。