空前のペットブームの影に

「こちらにいるのが、今回処分される予定の犬たちです。12頭います」佐藤は、ずらっとケージの中に閉じ込められた犬たちを紹介した。

殺処分が予定されている犬はいずれも雑種で、人とあまり接触したことがないせいか、ほとんどが怯えていたり、威嚇のために吠え続けるといった状態であった。

犬の収容年数は、それぞれの犬に施される実験の内容によって違っている。急性実験のために数日で殺処分される犬もあれば、慢性実験で経過観察をするために何年も収容される犬もいる。年齢も若い犬から年を経た犬までさまざまだ。

倉田は、いつ実験されるかもしれない恐怖のため、犬たちがこんなに怯えているのかなと思った。佐藤にそう尋ねると、

「いえいえ、違うんですよ。ここにいる犬は、そのほとんどが処分場で譲り受けたものですが、その時にもうすでに人を恐れたり、人を信じなかったりしていました。

人間の都合だけで犬を飼い、最後にはどのように扱って良いのか分からなかったんじゃないですか、何の罪の意識もなく簡単に捨ててしまう。ペットブームの影にひそむ動物虐待ですよね。

ここにいる犬たちは、不幸な生き方を強いられたのです。だから、人間を信用しないで、いつも怯えているのですよ」

倉田は、本当にかわいそうなのはこの子たちなんだなとつくづく思った。それと同時に、いま置かれている自分の立場の大切さを改めて思い知らされた感じがした。

部屋の中には、怯えて鳴く犬の声が充満していた。

倉田には、犬たちが、「早くボクたちを外に出してよ」と訴えているように聞こえてくるのであった。